200×年、6月某日。遂に日本国内初の公道・F-1グランプリ、トーキョー・シンジュク・グランプリの開催が実現した。かねてから「モナコ・グランプリみたいのを日本でもやろうよ」と発言していた石○・東京都知事が"no
race,no life"のコラムニストの開催案を受け、JAF/日本道路公団/消防庁/警視庁らを全て抱き込み、国会内での大反対にも屈する事無く、念願叶ってようやく開催が実現する運びとなったのである。このレースの為に数十億円が東京都の年度予算から投入されたが、正に東京オリンピック/サッカー・ワールドカップ以来の国際イベントとして、全世界が東京/新宿に注目している。だが、舞台が東京の交通の中心である新宿とあって、都知事自ら都庁周辺の道路使用を推進しただけでは事が済まず、結局3日間に渡ってJR/私鉄/地下鉄の各線は新宿駅通過/もしくは近隣の駅からの折り返し運転、と言う処置を行い、駅周辺の幹線道路も完全な通行止めと言う異例の事態となった。FIA会長マックス・モズレーは「実現に向けて動いた全ての人々の努力の賜物」とグランプリ開催を祝し、FOCA会長バーニー・エクレストンは「ダウン・タウンでのF-1レースとしては世界最高レヴェル」と評した。ディフェンディング・チャンピオン/モナコ5勝のストリート・スペシャリスト、ミハエル・シューマッハー(フェラーリ)は「予想以上にエキサイティングなサーキットだ」と感心し、負傷欠場のジェンソン・バットンに代わってBAR・ホンダをドライヴする'01年マカオF-3覇者、佐藤琢磨は「東京の街でレースが出来るなんて夢のよう」と、期待を隠さない。.....遂に東京の街にF-1マシンの轟音が響く時が来たこの記念すべきレース。まずは、コースを紹介しよう。
緩やかな右カーブはJR線の大ガードへ向けてアクセルを誘う。しょ○べん横町を右手に大ガードを潜ったら、日本最大の歓楽街が待つ、"歌舞伎町・ストレート"へと突入する。この新宿、いや東京一派手な歓楽街を両脇にして靖国通りを直進。800m程走ったら大きく右へステアリングを切る。目の前に新宿御苑を見る、"2丁目・カーブ"だ。昼間のビジネス街から一変、夜ともなればニュー・ハーフ達の社交場と化す新宿2丁目に入り、すぐに左へターンするとそこは"新宿通り・ストレート"。スタジオ・アルタを背にマシンは四ッ谷方面へとフル加速して行く。だが750m先にはこのコースで最もタイトなヘアピン、"外苑西・ヘアピン"が待ち受けている。タイヤ・スモークを上げながらフル・ブレーキング、外苑西通りで右へ折り返すといよいよ難易度の最も高い"御苑トンネル"へと入って行く。緩やかな右カーブが続くトンネル内は暗く、当然入った瞬間何も見えなくなってしまう。ウォールに当たらないよう、慎重かつフル・スピードでトンネルを抜けた次の瞬間、待ち受けるのは真っ白な太陽の光り。しかし、同時にフル・ブレーキングが要求される、さながらモナコのようなシケインの存在 に気付く。明治通りとの交差点に設けられたのは右手に聳え立つレコード・ショップ、ヴァージン・メガストアに由来する"ヴァージン・シケイン"だ。ブレーキングに失敗すれば右は"すき屋"/左は"吉野屋"、どちらにしても牛丼店の餌食となる。しかし、このシケインを抜ければホーム・ストレート、大観衆の待つ"route20・ストレート"へと帰って来る事が出来る。前半は超高層ビル街に囲まれた直角ターン/立体交差を持つテクニカル・コース、後半区間はハイ・スピードとフル・ブレーキングを必要とする高速コース。トーキョー・シンジュク・グランプリを制するには、エンジン・パワー/ダウン・フォース/メカニカル・グリップ/ドライバーのテクニック、等の全ての要素が均等に揃っていなければならない。さあ、この記念すべき1戦を制するのは、いったい誰なのか。 |
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決勝日、曇り。気温27度、路面温度は25度。天気予報では午後には雨がパラつく可能性もあり、各チームはレイン・タイヤも準備している。午後1時、都知事の開催宣言とロック・バンド、"ガー○ラ"による国歌演奏が行われ、セレモニーは無事終了。予選1位はフェラーリのミハエル・シューマッハー、タイムはただひとり1分38秒台に突入の1分38秒775。ミハエルは「出来ればドライのままだと良いね。ここはもし雨が降ると滑りやすくなるから」と、雨を歓迎してはいない様子。フロント・ロウを分けたのはマクラーレン・メルセデスのデビッド・クルサードで1分39秒279、トップとコンマ5秒差も「雨でも降れば何が起きてもおかしくは無いさ」と、決勝での逆転を心に秘めた様子。2列目はミハエルのチーム・メイト、フェラーリのルーベンス・バリチェロとウイリアムズ・BMWのファン・パブロ・モントーヤ。モントーヤは予選アタック・ラップ中にLOVE・ターンでミスをしたのがタイムに響いており、決勝には自信を見せている。3列目、5、6位にはヤルノ・トゥルーリ/フェルナンド・アロンソのルノー勢が並ぶ。ルノーは明らかに後半区間でタイムを稼いでおり、レースではタイヤの磨耗が気になるところ。続く7位にマクラーレンのキミ・ライコネン、4列目イン側8位に我等が日本の佐藤琢磨(BAR・ホンダ)が来た。佐藤は全ドライバーの中でも2丁目・カーブの通過速度がトップで、予選終了後に多くのニュー・ハーフ美女達に囲まれていた。以下9位ラルフ・シューマッハー(ウイリアムズ・BMW)、10位ジャック・ビルヌーヴ(BAR・ホンダ)、11位ニック・ハイドフェルド(ザウバー・ペトロナス)ここまでが1分39秒台。続いて12位オリビエ・パニス(トヨタ)、13位マーク・ウェバー(ジャガー)、14位ジャンカルロ・フィジケラ(ジョーダン・フォード)、15位ハインツ・ハラルト・フレンツェン(ザウバー・ペトロナス)、ここまでは1分40秒台。続いて16位クリスチアーノ・ダ・マッタ(トヨタ)、17位ラルフ・ファーマン(ジョーダン・フォード)、18位アントニオ・ピッツォニア(ジャガー)、19位ヨス・フェルスタッペン(ミナルディ・コスワース)の4人が1分41秒台、20位ジャスティン・ウィルソン(ミナルディ・コスワース)はアタック中にコース・オフ、タイムは1分42秒804であった。 が、16番手のトヨタのダ・マッタはダミー・グリッドへ向かう際にエンジンが白煙を吹き、急遽スペア・カーに乗り換えてのピット・スタートとなった。トヨタはホンダと共に地元グランプリと言う事もあって期待がかかっていただけに、両者共残念な結果となった。トヨタの高橋敬三ゼネラル・マネージャーは、前夜ゴールデン街でヤケクソで飲んだくれている所を目撃されている。もっとも、ボッタクリの店で警察沙汰の騒ぎを起こしたミナルディのポール・ストッダートよりはマシだが。 |
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午後1時30分、各車がゆっくりとダミー・グリッドを離れる。53周で争われるレース、舞台となる新宿の街は曇り空、上空を舞うヘリコプターは超高層ビルの遥か上.....。いったい誰が、この街にF-1サウンドが鳴り響く日を予想したであろうか。ミハエルを先頭に、19台のマシンがスターティング・グリッドへと帰って来る。シグナル・レッド、緊張が走る。そしてブラック・アウト、遂に記念すべき第1回トーキョー・シンジュク・グランプリがスタートした。カラス達が一斉に飛び立ち、ミ ハエル・シューマッハーの真紅のフェラーリを先頭にRoute20をF-1マシンが加速する。ピット・ロードから遅れてダ・マッタもスタート。ガソリン搭載量が多いのか、はたまたローンチ・コントロールが上手く作動しなかったのか、クルサードが伸びない。ストレート後半でバリチェロとモントーヤがクルサードの前に出る。後方からはスタートを上手く決めたフィジケラとフレンツェンがジャンプ・アップ、ビルヌーヴ、ハイドフェルドらを抜いて第1コーナーへ。トップのミハエルが余裕で都庁・ストレートへ差し掛かった頃、第1コーナーのエス・ド・ワシントンで事故発生。パニスとピッツォニアが互いに譲らず、前方のウェバーのリアに突っ込んで3車ともコース・アウト。パニスとウェバーの2車はNSビル前に並んで停止し 、ピッツォニアはフロント・ウイングを失ってスロー走行、この後ピットへ帰ってリタイアとなった。ジャガー勢は一瞬にして全滅。ミハエルのフェラーリは快調にトップを行き、京プラ・コーナーでは既に1秒以上のリード。以下バリチェロ、モントーヤ、クルサード、トゥルーリ、アロンソ、ライコネン、佐藤と続く。新宿通りに出るとトゥルーリのルノーがクルサードに襲いかかり、ヘアピン手前で前へ。御苑トンネルを抜け、甲州街道を加速。新宿のオープニング・ラップはフェラーリの1.2であった。 |
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ミハエル、バリチェロのフェラーリ1.2で迎えた10周目、6位に付けていたアロンソのルノーがヨロヨロとピットに入り、ミッション・トラブルでそのままリタイヤ。翌11周目にはフェルスタッペンのミナルデ ィが歌舞伎町・ストレートでエンジン・ブロウ。フェルスタッペンはピットへ戻らず、前夜モテたキャバクラの店員を探しに、そのまま歌舞伎町一番街へと消えて行った。トラブルは続く。なんと、今度はトップと4秒差の3位につけていたモントーヤが新宿通りで白煙を上げながらストップ。「2丁目・カーブあたりから変だったんだ。新宿御苑駅前を過ぎたら、ドカンと来て終わりさ」目の前が消防署だったので事無きを得た。コース上はこれで14台。徐々に上空を分厚い雲が覆い始める。雨は来るのか。ミシュランのピエール・デュパスキエが時折ピット・ロードへ出て来てしゃがみ込んでは戻って行く。フェラーリのピットではロス・ブラウンがバナナを食べながらドコモ・タワーの先を見上げている。 |
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16周目、全チームの先陣を切ってジョーダンのファーマンがピット・イン、給油とタイヤ交換を行い、8.9秒でコースへ復帰。明らかに2回ストップだ。17周目にはフィジケラが、18周目にはラルフ、ハイドフェルド、ウィルソンらが続々とピットへ。が、新宿上空はいつ雨が降って来てもおかしく無い程暗くなって来ている。20周目、トップを行くミハエルが1分39秒875のファステスト・ラップを記録。3.5秒後方にバリチェロ、それを6秒差でクルサード、トゥルーリが追う展開。21周目、5位ライコネンが1分39秒790で最速ラップを塗り替える。4位トゥ ルーリとの差は2秒、3車による激しい3位争いだ。6位佐藤、7位ビルヌーヴのBAR編隊、8位ラルフの後方ではフィジケラとフレンツェンが周回遅れのダ・マッタの後で8位争いを展開。ペースの上がらないフィジケラに対し、フレンツェンは明らかにイライラしている。そこへファーマンも追い付いて来てしまい、ダ・マッタはヴァージン・シケインで3人全員に進路を譲る。だがそこは、よりによってトヨタの巨大なショー・ルームの真ん前だった。 |
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23周目、ルノーのピットで「雨だ!」の声が上がる。確かに新宿駅周辺ではパラパラと雨粒が見えるが、サーキット全体ではどうなのか。1回ストップのトゥルーリがピットへ。マイク・ガスコインが無線でトゥルーリに問いかけるが、トゥルーリは首を横に降る。少なくとも、四ッ谷方面はまだ降っていないようだ。トゥルーリはもちろんドライ・タイヤでコースへ復帰。ところが26周目、突然のスコ ールのように激しい雨が降り出す。開催に6月の東京を選んだからなのか、はたまた言い出しっぺの筆者が雨男なのがいけなかったのか.....。レースが丁度半分を迎えた27周目、各車が一斉にピットへ。BAR・ホンダのピットではデビッド・リチャーズが「2台とも入れろ!」と指示。最初に入ったミハエルがブリヂストンのインターミディエイトへ交換、10.1秒でピットアウト。続いてライコネンが入り、更に佐藤とビルヌーヴ、BARは2人いっぺんの作業だ。こちらもインターミディエイトを装着。更に周回遅れのダ・マッタ、フィジケラらが作業を終えてピットアウト。結局タイミング的に損をしたトゥルーリ、ラルフらももう1度レインへの交換の為にピットへ。28周目、本来入るべき時を逃したバリチェロとクルサードがほぼ同時にピットへ。だがタイミングを逃したツケは大きく、トップのミハエルに対して11秒後方に2位ライコネン、更に5秒後方にはピット・インのタイミングが絶妙だった佐藤のBARがいる。そして4位バリチェロ、5位クルサード、6位ビルヌーヴ、7位トゥルーリ。だがトゥルーリに対し、ピットロードでの速度違反によるドライヴスルー・ペナルティの指示。雨は既にコース全体を濡らしてしまった。30周目、裏都庁でファーマンがアクアプレーンに足を救われてクラッシュ。リア・ウイングやターニング・ベインがコース上に散らばり、セーフティー・カーが出動。この時点で2位ライコネンを13秒リードしていたミハエルのアドバンテージは無くなった。「昨日、アレジからお守りを貰ったんだけどね.....」と項垂れるファーマン。 |
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4周に渡ってフルコース・コーションとなり、コースがクリアになって幾分雨脚が弱まった34周目、レースは再スタート。ミシュランのライト・レインを履いたライコネンがスタート/フィニッシュ・ライン通過直後に首位ミハエルに襲い掛かる。両者全く譲らず、エス・ド・ワシントン進入でピタリと並んだ2人。ミハエルがイン側、ライコネンがアウト側、ライコネンのブレーキングが遅い。接 触!。ライコネンのマクラーレンはそのまま甲州街道を直進してエンジンが停止、ミハエルはスピンして後ろ向きにストップ。そこを佐藤、バリチェロ、クルサード、ビルヌーヴが駆け抜ける。ミハエルはどうにか体勢を立て直して5位でコース復帰。だが、トップは佐藤が奪った。遂に日本人ドライバーが、それも母国グランプリで先頭に立った、歴史的な瞬間であった。その後方ではビルヌーヴがペースの上がらないクルサードを追い回し、38周目の外苑西・ヘアピンで遂にインを取ってオーバー・テイク、3位に上がった。41周目、ウイルソンがこの日3度目のピット・ストップ。だが、彼のコスワース・エンジンは既にブロウ直前、既に1台(フェルスタッペン車)エンジンを壊しているミナルディ。「もったいないから」と、チームはリタイアを決めた。 |
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レースも残り10周となった42周目、2位バリチェロが佐藤の背後にピタリと付いた。都庁前からスリップを抜け出し、ヒルトン・カーブ目掛けてサイド・バイ・サイド。佐藤は一瞬怯んだか、ブレーキングでアウト側へ膨らんで行く。トップはバリチェロが奪った。佐藤は懸命について行くが、フェラーリは生乾きの新宿を1周1秒近く離して行く。45周目、その後方ではビルヌーヴを追撃し ていたクルサードが歌舞伎町ストレートで単独スピン。水たまりに乗ったか、それともキャバクラの看板に目を奪われたのか。そこをミハエルが通過し、クルサードは5位へと転落。ここでトップのバリチェロと2位佐藤の差は3秒、2秒遅れてビルヌーヴ、その5秒後方が4位ミハエル、更に10秒後方でクルサードとトゥルーリが争っていたが、46周目の大ガード下でトゥルーリが突然フェンスにクラッシュ。どうやら道路上の右/左の車線表示を見間違えたらしい。「これがモーター・レーシングさ」と呟くトゥルーリ。果たしてそうだろうか。 |
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47周目、残り7周と言う所でなんとトップを行くバリチェロが突然ピットへ。タイヤは代えない、給油だけだ。何と言う事か。バリチェロ車は燃料が足りなかったのである。6.2秒でコースへ復帰するが、既に佐藤、ビルヌーヴ、ミハエルが通過して4位転落。ミハエル車は大丈夫なのか。フェラーリのピットでブラウンはナイジェル・ステップニーとヒソヒソ話をしている。これでトップは再び佐藤、2秒差でビルヌーヴ、BAR・ホンダの1.2体勢である。だが、3位ミハエルがビルヌーヴの1秒差まで迫って来ていた。49周目、トンネルからヴァージン・シケインの飛び込みでミハエルがビルヌーヴを捕らえた。残り4周、佐藤とミハエルの 差は2.5秒。BAR・ホンダのピットではホンダ・プロジェクト・リーダーの木内が拳を握りしめている。残り3周、差は1.5秒。帝王ミハエルは落ち着いている。若い佐藤を揺さぶる事無く、ただチャンスを待っているだけだ。フェラーリ・ピットが気にしているのは、燃費だけだった。 |
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遂に残り1周となったホーム・ストレート、ミハエルは佐藤に並びかけた。コースはまだ濡れている。しかも、ミハエルはこの先のエス・ド・ワシントンでライコネンとの接触があったばかりだ。だが、その時と同じようにミハエルはインへ。佐藤はアウト側。帝王は同じ過ちは繰り返さないとばかりに堂々とフェラーリのノーズをコーナーへ突っ込む。またも接触か?。いや、佐藤が退いた。ミハエルが前へ.....違う、佐藤だ。レコード・ライン以外はま だ濡れており、タイヤのグリップが無い。佐藤はあえてミハエルにイン側を行かせ、深くなるブレーキングの間に複合の左へと先回りしたのである。つまり、佐藤は特等席から、ミハエルとライコネンの接触劇を見ていたのだ!。ミハエルは焦り始めた。立体交差下でまたも追い付き、京プラ・コーナーで再びインへ。だが佐藤は譲らない。帝王相手に堂々とアウトからかぶせて行く。歩道に作られた観客席は全員総立ちだ。歌舞伎町を抜け、佐藤得意の2丁目コーナーから新宿通りへ。だが、フェラーリも速い。外苑西・ヘアピンでまたもテール・トゥ・ノーズに。勝負は、御苑トンネル出口のヴァージン・シケインしかない。狭いトンネル内で、ミハエルはやや加速を鈍らせた佐藤に並びかけて行く。目前に迫るシケイン。アウトからミハエル、インに佐藤。ブレーキング競争だ。ジャン・トッドはピットで顔を手で覆った。観客達は皆、指を指していた。何かおかしい。異様な気配を感じる。ここでミハエルは初めて、一瞬だけ左側を見た。そこには、驚く事にBAR・ホンダがいた。ミハエルの更にアウト側に、なんと3位ビルヌーヴが並びかけていたのだ。トップの2人が争ってブレーキング競争を繰り返している間に、もう1台のBAR・ホンダが追い付いて来てしまっていたのだ。いや、佐藤はひょっとしたら、トンネルの中からミラーを見ながらペースをコントロールしていたのかも知れない。3台が並んでシケインへ。白いBAR・ホンダのサンドイッチに挟まれたミハエルはたじろぎ、3人の中で最も速くブレーキを踏み込んでしまった。そして次の瞬間、リア・ウイングに描かれた"HONDA"の文字が2つ、ミハエルの前から猛スピードで消えて行った。大歓声の中、中○弘子・新宿区 長によってチェッカー・フラッグが振られる。優勝、佐藤琢磨、2位、ジャック・ビルヌーヴ。BAR・ホンダの1.2フィニッシュだ。BAR・ホンダのピットは大騒ぎ、吉野浩行ホンダ社長がスタッフに胴上げされている。そして3位がミハエル・シューマッハー、以下4位バリチェロ、5位クルサード、6位フレンツェン、7位ハイドフェルド、8位ラルフ、9位フィジケラ、10位ダ・マッタ。完走10台。やはり燃費がギリギリだったのか、パレード・ラップ中にミハエルのフェラーリが都庁前でストップ。バリチェロがミハエルを自らのマシンのインダクション・ポッドに乗せてパルクフェルメへ。コース・サイドの観客席からは惜しみ無い拍手が贈られるが、モニターにバリチェロの後方車載カメラでミハエルの股間が大写しになって爆笑。パルクフェルメでマシンを降り、大声援の中、何度も天に向かって拳を突き上げるF-1初優勝の佐藤を見て涙をこらえ切れないエディ・ジョーダンの姿が印象的であった。 |
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そして表彰式。君が代が流れる中、ミハエル・シューマッハー/ジャック・ビルヌーヴと言う2人のワールド・チャンピオンに囲まれて、表彰台のまん中に立つのは日本の佐藤琢磨だ。溢れる笑みを押さえ切れない佐藤は何度もガッツ・ポーズを繰り返し、コンストラクター・トロフィーを持ったホンダの木内と共にチャンピオン2人から派手なシャンパン・シャワーを浴びた。雨は完全に上がっており、超高層ビル郡が一斉にライト・オン、新宿御苑からは大きな花火が上がった。記者会見で、ミハエルは「トンネルを抜けた瞬間、外は真っ白だった。まさか自分が白いマシン2台に囲まれているとは思わなかったんだ。だが、佐藤は素晴らしくフェアで、今日の勝利に相応しい」と新しい勝者を讃えた。2位ビルヌーヴはニヤニヤとしながら「別にタクマのサポートをしたワケじゃない。あわよくば自分が勝とうと思っただけさ」と、ビルヌーヴらしいクールなコメント。優勝した佐藤は「何と言って良いか.....とにかく嬉しい」と言って、後は涙で声にならない。サングラスをしたインタビュアーが見兼ねて「それじゃあ、来週また来てくれるかな?」と問いかけ、佐藤も「いいとも!」とお約束のボケを返し、歴史的な1戦、第1回F-1トーキョー・シンジュク・グランプリは幕を閉じた。 |
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.....近代グランプリ・カーと超高層ビル/歓楽街。そして、自分が暮らす街での世界最高峰のレース。そんな夢のようなグランプリの開催が現実のものとなる日が、いつか必ずやって来る。その時、開催地として候補に上がるのは、あなたの街かも知れないのだ。その日を夢見て、筆者は今度はトーキョー・シモキタザワ・グランプリの計画に移る事とする(おいおい.....)。
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